日本各地で深刻な水不足が進行している。2025年10月から太平洋側を中心に続く記録的な少雨は、2026年3月末の時点でも改善の兆しを見せていない。

だが、この問題の本質は「雨が降らないこと」だけではない。雪が降らないこと、そして雪が山に留まらないことが、日本の水資源を根本から脅かしている。

いま、何が起きているのか

2026年3月末現在、全国20府県・40ダムで貯水率が平年を下回り、15水系18河川で取水制限が実施されている。

特に深刻なのが以下の地域だ。

  • 愛知県・宇連ダム:貯水率0.5%。底水をポンプでくみ上げる緊急措置が続く。豊川用水は第7回節水対策に引き上げられ、農業用水・工業用水は50%カット、水道用水も30%カットとなった。
  • 神奈川県・宮ヶ瀬ダム:貯水量が過去最低を更新中。水位低下により、40年前にダム建設で沈んだ集落の橋や道路標識が姿を現し、全国的に報道された。神奈川県は30年ぶりに渇水対策本部を設置している。
  • 高知県・大渡ダム:貯水率が過去最低を更新。取水制限は最大65%に達した。
  • 四国・早明浦ダム:「四国の水瓶」と呼ばれるこのダムの貯水率は48.4%。かろうじて持ちこたえているが、予断を許さない。

西日本太平洋側 1月の降水量: 平年比わずか9%

1946年の統計開始以来、過去最少を記録。

出典: 気象庁

雪と水は、同じ問題だ

一般的に、渇水と聞くと「雨が降らないこと」を連想する。しかし、日本の水資源を支えているのは雨だけではない。

冬の間に山岳地帯に降り積もった雪は、春から夏にかけてゆっくりと融け、河川やダムに水を供給する。いわば「天然のダム」だ。この融雪水は、農業用水、工業用水、飲料水として、日本の水インフラを支える重要な柱となっている。

Nature誌に掲載された研究(Katsuyama et al., 2020)は、2020年の記録的暖冬を分析し、次のことを明らかにした。降水量自体は前年より多かったにもかかわらず、記録的な高温のために雪として蓄えられず、日本の南部多雪地域の36河川流域のうち8流域で積雪水量(SWE)が観測史上最低を記録した。

雨が降っても、雪として山に蓄えられなければ、春から夏の安定した水供給は確保できない。

国土交通省も「水資源を融雪に多く依存する地域においては、春先以降の水利用や河川環境等に大きな影響が生じる可能性がある」と公式に警告している。

北アルプスでも雪が足りない

今シーズンの特徴は、太平洋側の極端な少雨だけではない。

北日本・日本海側では平年並みからやや多い降雪を記録した地域もあるが、北アルプスを含む中部山岳地帯では積雪量が例年を下回っている地点が多い。多くのスキー場が予定より早く営業を終了し、雪不足による営業休止や廃止が全国的に増加している。

環境省の調査(A-PLAT)は、中部地域・北アルプス圏を対象に、気温上昇が積雪水量の減少と融雪時期の早期化をもたらし、春から夏の水不足につながるメカニズムを示している。

問題は「今年だけの異常」ではない。Climate Dynamics誌(2025年)に掲載された最新研究は、日本において気候変動により夏の河川流量が減少し、連続渇水日数が前例のないレベルに達する可能性を予測している。

いま太平洋側で起きている渇水は、北アルプスの雪不足と地続きの問題だ。山に雪が十分に蓄えられなければ、春から夏にかけて水が来ない。中部地方整備局が天竜川・大井川で取水制限を実施している事実は、この構造を端的に示している。

「天然の白いダム」という発想

アルプス雪崩研究所(AARI)は、雪崩制御の専門機関として活動しているが、その取り組みは水資源問題とも深くつながっている。

計画的な人工雪崩によって砕かれた雪は、密度が上がり、通常の積雪よりも長く山に残る。これにより融雪時期が遅れ、春から夏にかけて安定的に水が供給される。科研費プロジェクト(KAKENHI-PROJECT-20K06301)の研究は、「融雪を遅らせること」自体が気候変動への適応策として学術的に有効であることを示している。

雪崩を制御することは、人命を守ると同時に、水を守ることでもある。

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出典・参考リンク