代表挨拶

「雪は天然の白いダム」— 師の教えから始まった道
「雪は貴重な水資源。雪は天然の白いダム、雪崩とは自然循環の中では無くてはならない現象だ」この言葉を教えてくださったのは、私の雪崩の師である故・若林隆三先生でした。先生のこの言葉が、私の人生を変えました。雪崩を単なる「災害」として見ていた私の目を開かせ、自然の壮大な循環システムの一部として捉える視点を与えてくれたのです。
気候変動が突きつける新たな課題
近年の気候変動は、雪と雪崩の姿を大きく変えています。2015年から白馬大雪渓で観測を続ける中で、私は肌で感じています。
- 降る雪の質が変わった
- 雪崩のパターンが変わった
- そして、雪そのものが減っている
2024年、ついに白馬大雪渓は完全消失しました。こんな時代だからこそ、私は確信しています。「感覚だけではなく、科学的データによる裏付けが必要だ」と。自分の感覚にブレはないのか? 自然変化の現在地はどこなのか? 変化の先に何が待っているのか? これらを正確に把握してこそ、適切な対応と事故防止が可能になります。
雪崩は「白い悪魔」ではない
雪崩は長らく「白い悪魔」と呼ばれ、恐れられてきました。しかし、本当にそうでしょうか? 雪は水資源です。冬に山で蓄えられた雪があるからこそ、雨が降らない時期でも、私たちは生活用水や農業用水を得ることができています。そして雪崩は、この水資源の確保に重要な役割を果たしています。雪崩が起きると:
- 雪は細かく砕かれる
- 密度が高くなる
- 谷間に集積される
- 結果、雪は長期保存される
つまり雪崩は、天然の「水資源管理システム」なのです。
共生への道 — 研究所設立への想い
若林先生から受け継いだ教えと、10年以上の観測経験。そして16歳の時に雪山で遭難し、生かされた命。これらすべてが、一つの確信に結びつきました。「雪崩の素晴らしさを伝え、雪崩と共に生きる社会をつくりたい」。2025年2月、その想いを形にすべく、一般社団法人アルプス雪崩研究所を立ち上げました。
私たちが目指す未来
雪崩を恐れ、避けるのではなく、雪崩を理解し、活用する。それは決して、雪崩を軽視することではありません。むしろ、雪崩という自然現象に対する深い敬意と、科学的な理解があってこそ可能になる挑戦です。具体的には:
- AIを活用した高精度な雪崩予測で、事故をゼロに
- 人工雪崩による水資源管理で、渇水問題を解決
- 雪崩救助犬の育成で、万が一の際も命を守る
これらを通じて、雪崩は私たちの営みの中で「無くてはならない存在」であることを、社会に伝えていきます。
若林先生の遺志を継いで
先生が遺してくださった「雪は天然の白いダム」という視点は、気候変動時代の今こそ、輝きを増しています。私は、先生から受け継いだバトンを、次の世代へ繋ぐ責任があります。それが、雪崩に「生かされた」私の使命だと信じています。雪国の未来を、雪崩と共に創る。この壮大な挑戦に、ぜひあなたも参加してください。共に、新しい時代を切り拓きましょう。
一般社団法人アルプス雪崩研究所
代表理事 森山建吾