斑尾高原スキー場で発生した雪崩の全景。樹林に挟まれたコースを雪崩のデブリが流下している(ドローン空撮)
2026年2月28日に斑尾高原スキー場で発生した雪崩の全景(当研究所による発生翌日の現地調査時にドローン撮影・2026年3月1日)

2026年2月28日、斑尾高原スキー場のコース内で雪崩が発生し、滑走中の5名が巻き込まれ、4名が負傷するという重大な事故が発生しました。雪崩の規模は幅185m、長さ600mという近年のスキー場内では例をみない大規模な雪崩が発生しました。

当スキー場は営業開始以来、コース内での雪崩発生が記録されていないスキー場です。私たちアルプス雪崩研究所は、発生翌日に雪崩救助犬による捜索と雪崩破断面の現地調査に入りました。

雪崩の堆積区で捜索を行う雪崩救助犬とハンドラー
雪崩の堆積区で捜索を行う雪崩救助犬とハンドラー(発生翌日・当研究所撮影)

その結果、今回、斑尾高原スキー場で発生した雪崩は「湿雪面発生雪崩」であると断定しました。世界的にも、温暖化に伴う湿雪雪崩の増加傾向が観測・予測されています(第2章)。ただし、湿雪面発生雪崩の発生メカニズムは、学術的に十分に解明されていません。湿雪全層雪崩は、大部分が発生前にグライドクラック(雪面の亀裂)や雪しわなどの前兆が現れます。一方、湿雪面発生雪崩の場合は、発生条件を満たせば前兆なく発生します。

この提言は、日本のスキー場(とりわけ、海外からのお客様を迎えているスキー場)に向けて示すものです。『国際標準に沿った7項目の「記録」を、この冬から始めていただきたい』、それが本提言の結論です(第4章)。

1. 営業中でのコース内の雪崩発生

2025-26シーズンに、営業中においてコース内で雪崩が発生したのは、斑尾高原スキー場だけではありません。フランス・シャモニーのラ・フレジェールでは、営業中の圧雪コース2本を雪崩が横断し、スキーヤー3名が一時埋没しました。米国ワシントン州のスティーブンスパスでは、営業中のコース内で滑走者が完全埋没し、4時間半後に救出されました(本稿で挙げる各事例は、執筆時点で公表されている公式発表・公的機関の報告・報道に基づきます)。

さらに、近年の米国でも、タオス(2019年・2名死亡)、シルバーマウンテン(2020年・3名死亡)、パリセーズ・タホ(2024年・1名死亡)と、営業中のコース内での死亡事故が続いています。

スキー場管理区域内の雪崩事故は、歴史的に見れば稀です。米国の集計では、約20年間でコース内の死亡雪崩事故は14件、犠牲者は17名です。ゲレンデ内の死因としては、樹木への衝突やツリーウェルへの埋没のほうがはるかに多く、「コース内での雪崩発生」は確率の低い出来事です。

しかし、2025-26シーズンに、国内外で営業中のコースで雪崩が発生しています。

ここで問うべきは、「稀だから考えなくてよいか」ではなく、「起きたとき、何が問われるか」です。

2. 気象変化が変えたのは、雪の量ではなく降り方と質

当研究所では、冬期(12月~翌年5月)の白馬を対象に、気象変化に伴う「雪の降り方と質」について調査しました。

その結果、白馬アメダス(標高約710m)では、1980年代から2020年代にかけて、地上平均気温が+1.17℃上昇しました(-1.52℃から-0.35℃)。同期間における、日本海中部の海面水温の上昇は+2.28℃です。一方で、輪島のラジオゾンデ実測では、同期間で上空1,500m(850hPa)が+0.7℃、上空5,500m(500hPa)にいたっては+0.2℃の変化で、上空の気温変化は小さいです。つまり、山の上からではなく、地面と海から先に暖まった。これが白馬周辺での気象庁の実測に基づく気温変化の構造です。

暖まり方に偏りがあれば、降る雪も変化します。白馬アメダスの季節降雪量(12月〜5月の合計)を見ると、2005〜2014年の10シーズン平均は678.90cm、2015〜2024年の10シーズン平均は455.70cmでした(223.20cmの差、-32.9%の減少、Welch検定 p=0.003)。これは、2005年以降の20年で、直近10年が前の10年より有意に少ないことを示します。

また、量だけでなく降り方も変わっています。1980年代から2020年代にかけて、冬期(12/1〜3/31)の降雪日数は-12.4日減りました(82.6日から70.2日)。日降雪の内訳を見ると、1〜3cmの降雪が-9.3日と減った一方、10〜20cmの降雪は+1.7日、20cm以上の降雪は+0.2日と微増傾向です。弱い雪が減り、強い雪が残るという傾向です。

さらに、雪そのものの質も変わっています。南岸低気圧型で降水があった日のうち、雪になった割合は、1980年代の79.3%から2020年代の59.8%に減少しました。一方で、雨になる割合が約2割から約4割に増加しました。また、同期間における南岸低気圧型の降雪日数は37%の減少で、全体の降雪日数減少の約45%にあたります。雨が増加するということは、湿った重い積雪、つまり全層雪崩や湿雪雪崩を起こしやすい雪質の増加につながると考えられます。

Kawase et al. (2024)は、人為的な温暖化は既に日本の大雪を強めていることを示唆しています。Sato et al. (2024)は、北海道の雪もいずれ現在の本州のような湿った重い雪に近づく予測を示しています。気象庁の『日本の気候変動2025』第6章では、1962年以降、日本海側の年最深積雪が減少傾向にあることを示しています。

この変化が与える影響は、雪そのものだけではなく、私たちの経験則にもあると考えています。「雪が少ない年は雪崩の心配も少ない」「この斜面は何十年も雪崩れていない」——そうした経験則が、通用しなくなり始めていると考えます。米コロラドを対象としたPeitzsch et al. (2026)は、大規模雪崩の引き金が降雪量から気温変動・雨・早期融雪へ移り、少雪の年でも大規模な雪崩サイクルが起こりうることを示しています。

斑尾の事故そのものを、気候変動のせいだと言うことはできません。それでもこの事故は、少雪や高温を安全の根拠にはできず、気象の変化による積雪構造の変化、経験則が通用しなくなっていることを現場に突きつけました。

海外に目を向けると、同じ方向の変化がすでに観測・予測されています。IPCCの雪氷圏特別報告書(SROCC, 2019)は「低標高では雪崩の数と到達距離は減少し、冬期を含め湿雪の雪崩がより頻繁になる」と評価しています。Mayer et al. (2024)によれば、スイスでは今世紀末までに乾雪雪崩が45〜65%減る一方、標高約2,300m以上で湿雪雪崩が10〜30%増えると予測しています。

Eckert et al. (2013)は、フランスの長期実測から、1978年を境に雪崩の性質が変化したことを示しています。湿雪雪崩は発生の時刻や規模の予測に大きな不確実性があり、乾雪の雪崩に比べて、人工的に誘発して事前に処理する余地も極めて限られることが、スイス連邦立雪・雪崩研究所(SLF, 2023)によって指摘されています。

フランスが1978年という変化点を提示できるのは、40年以上にわたる雪崩そのものの実測記録があるからです。日本には、長期間にわたる記録がありません。私たちに言えるのは、「雪と雪質が変わった」ということまでです。その先—発生する雪崩そのものが変わったかどうか—は、日本では確かめることができません。

3. 事故のあとに問われるのは、「記録」

第1章で挙げた米国の3つの死亡事故—タオス、シルバーマウンテン、パリセーズ・タホ—には共通点があります。いずれも、当日に雪崩管理(爆破等の人工制御)を実施したうえで開放されたコースで発生した雪崩事故になります。雪崩管理をしていても、事故は起きる。—その日、何を観測し、何を根拠に判断し、何を行なったか—、その『記録』のみが事故発生後にスキー場を守るものになります。

世界のプロが使う観測・記録の国際標準に、カナダ雪崩協会のOGRS(気象・積雪・雪崩の観測ガイドラインと記録標準。1981年初版、現行2024年版)があります。その本文には、こう明記されています。

正確で完全な野帳は、事故の際に雪崩の原因が問われたとき、重要な文書となり得る。

「記録が身を守る」は私たちの意見ではなく、国際標準そのものの思想です。ただし、記録は免責のための書類ではありません。—観測に基づいて判断し、必要な対策を打っていたこと—

それを、あとから誰でも検証できる形にするのが記録です。

カナダの雪崩業界が日々の観測を共有する情報基盤InfoExは、1991年に雪崩死亡事故の検死審問の勧告を受けて設立されました。米国では、雪崩管理記録の真正性そのものが裁判の核心になった事例があります(ベイル・2012年事故の訴訟)。事故のあと、北米で問われるのは「記録が標準に沿っていたか、本物か」の次元に達しています。

そして、いま日本のスキー場には、世界中からお客様が訪れています。

事故が発生したとき、説明を求められる相手は、利用者本人だけではありません。その家族、保険会社、旅行事業者へ—ときには国境を越えて—説明することになります。そして、その相手の多くは、記録の質そのものが法廷で問われる文化圏から来ています。

海外のお客様を迎えるということは、「私たちはここまでやっていた」と、世界に通用するかたちで示せる体制を持つ、ということです。私たちが記録をお願いする理由は、ここにあります。

ところが、その様式が、日本にはまだありません。スキー場の雪崩に関する観測・記録の統一された様式はなく、保管の義務もない。国際標準OGRSには日本雪崩ネットワークによる優れた日本語版(2017年)がありますが、底本は第6版のままで、本国は2024年に第7版へ改訂されています。

—誘致だけが先に進み、説明の備えがない—それが今の日本のスキー場の、いちばん危うい姿だと私たちは考えています。

4. 提言——海外からお客様を迎えるスキー場の「最低限セット」

世界に通用する記録とは、特別な設備のことではありません。訓練を受けた人なら誰が見ても、その日の山の状態と判断の経緯が分かる、統一された書き方のことです。国際標準OGRSの観測・記録標準を土台に、日本のスキー場の実情に合わせて当研究所が構成した7項目を、「最低限セット」として提言します。

  1. 日々の気象・積雪観測の記録 — 毎朝定時に、気温・降雪・風・積雪深を決まった様式で
  2. 積雪断面と弱層テストの記録 — 定点で、定期的に
  3. 雪崩発生の記録 — 自然発生・人為発生を問わず、位置・規模・破断面の状態を都度
  4. 雪崩対策作業の記録 — 実施している場合、その内容・範囲・結果
  5. 事故・ニアミスの報告様式の常備と、外部の第三者(業界団体・研究機関等)への報告
  6. コース開放・閉鎖判断の記録 — いつ、誰が、何を根拠に判断したか
  7. 記録の保存と、求められたときに開示できる体制

第一歩は、難しくありません。項目1—毎朝の定時観測—を、国際様式で記録し始めることです。決めることは二つだけ。毎朝、誰が観測するか。その記録を、誰が確認するか。OGRSの日本語版は無償で公開されています。野帳1冊から始めることができます。

5. むすび——これからのスキー場の安全対策

私は十数年、スキー場の雪崩管理に従事してきました。この10年を振り返っても明確に気温が変わり、降る雪が変わり、雪質が変化して、発生する雪崩が変化していくことを現場で見続けてきました。

そして、3年前に事態の重さを考えて、個人のブログにスキー場内で雪崩事故は起きると声を発しました。その現実が斑尾高原スキー場で形となって現れました。これは当たり外れのゲームではありません。今後の気象変化を考えた時に、降る雪は減りかつ雪質が変化していくと考えています。自然の変化のスピードが早すぎて、経験則が通用しない時代になったと現場で痛感しています。この提言を公開した理由は、将来のスキー場の安全管理を鑑みた上でそれぞれのスキー場が、自らの判断で、今日から動き出せるように提言を出させてもらいました。

この感覚は、私だけのものではありません。当研究所の礎を築いた雪崩研究者・若林隆三(1940–2022)は、1984年に雪割れの発生で営業停止に追い込まれたニセコに招かれ、現地を調査し、翌日の記者会見で営業再開を後押しする判断を示して、スキー場を窮地から救いました。その時彼が書き残した言葉があります。

欧米のスキー場では人工雪崩爆破で日常的にコースの安全を確保している時代に、なんたる文化格差!

40年前の、人工雪崩処理をめぐる言葉です。日本の現場を責めるために引用したのではありません。しかし、雪が変わり始めた今も、観測と記録をめぐるこの「格差」はまだ埋まっていません。

次の警告を書く代わりに、私たちはこの提言を書いています。

雪は、変わり始めています。
私たちの記録は、変わったでしょうか。

雪崩安全対策、観測体制の設計、記録様式の導入、スキーパトロール教育、雪崩サーチ&レスキューの講習についてのご相談は、当研究所までお寄せください。

一般社団法人アルプス雪崩研究所 代表理事 森山建吾
HP: https://alpsnadare.com / Email: info@alpsnadare.com

出典

【論文・学会発表】

  1. Baugher, E., Savage, S. and Birkeland, K. (2023). Characteristics of Inbounds Avalanche Fatalities at United States Ski Areas. Proceedings of the International Snow Science Workshop (ISSW) 2023, Bend, OR.
  2. Eckert, N. et al. (2013). Journal of Glaciology, 59(213), 93–114.
  3. Haegeli, P. et al. (2014). Proceedings of the International Snow Science Workshop (ISSW) 2014, Banff.(InfoExの成立と運用)
  4. Kawase, H. et al. (2024). SOLA, 20, 167–176.
  5. Mayer, S. et al. (2024). The Cryosphere, 18, 5495–5517.
  6. Peitzsch, E.H. et al. (2021). Scientific Reports, 11, 10032.
  7. Peitzsch, E.H. et al. (2026). Natural Hazards and Earth System Sciences, 26(3), 1059–1074.
  8. Sato, Y., Kamada, M., Hashimoto, A. and Inatsu, M. (2024). Journal of Applied Meteorology and Climatology, 63(10), 1097–1112.

【報告書・国際標準・公的資料】

  1. Canadian Avalanche Association (2024). Observation Guidelines and Recording Standards (OGRS), v7.0.(日本語版: 日本雪崩ネットワーク訳 (2017)・底本は第6版)
  2. IPCC (2019). Special Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate (SROCC), Chapter 2.
  3. NWAC (2026). Stevens Pass事故報告書(2026年2月26日発生).
  4. WSL Institute for Snow and Avalanche Research SLF (2023). Climate change and avalanches(2023年11月30日公開).
  5. 気象庁 (2025). 『日本の気候変動2025』第6章(HTML公開版のため章単位で特定).

【当研究所の調査・解析】

  1. アルプス雪崩研究所 (2026a). 斑尾高原スキー場雪崩の現地調査(発生翌日からの雪崩救助犬による捜索・破断面調査。雪崩種の判定根拠).
  2. アルプス雪崩研究所 (2026b). 『白馬の46冬——白馬村周辺の降雪環境変化の定量分析(1980〜2026)』. 気温は気象庁アメダス白馬観測点の実測値、上空気温は輪島ラジオゾンデ実測値(NOAA IGRA)、海面水温は気象庁データ、降雪日数・気圧配置分類はERA5再解析による当研究所の解析.
  3. アルプス雪崩研究所 (2026c). 白馬アメダス季節降雪量の解析(12月〜5月合計、2005〜2024年の連続20シーズン。2005年以前は欠測により検証対象外).

【報道・公式発表】

  1. 斑尾高原スキー場公式発表 (2026年2月28日)・上越タウンジャーナル・信濃毎日新聞 各報道.
  2. The-Ski-Guru (2026). Chamonix La Flégère(2026年2月24日発生).
  3. SnowBrains・ABC News (2019)〔Taos〕/Spokesman-Review (2020)〔Silver Mountain〕/NBC News (2024)〔Palisades Tahoe〕.
  4. Colorado Sun (2026). コロラド州スキー場内死亡内訳(2026年5月11日)・死者減少報道(2026年2月27日).
  5. Colorado Sun (2021). Taft Conlin訴訟報道(2021年8月18日).
  6. 森山建吾 (2023). 日本中をまわって抱いた危機感、雪崩事故は起こる. ブログ『雪崩と生きる』(2023年6月29日公開).
  7. 若林隆三 (2022). ニセコ:雪崩処理原始時代. ブログ『雪崩と生きる』内「若林の視点」(2022年3月15日公開).