概要
日本全国349か所のスキー場について、気候変動が進んだ将来に天然雪だけで営業を続けられるかを評価した研究が、日本雪氷学会誌「雪氷」に掲載された。北海道大学の吉沢直講師と、森林総合研究所十日町試験地の勝山祐太研究員による共同研究である。
結果は、産業革命前と比べて世界の平均気温が4℃上昇した場合、天然雪だけで安定してスキー場全体を営業できるのは全国で7か所。一部のコースだけでも営業できる見込みがあるスキー場を含めても26か所にとどまった。2℃上昇の場合は、全体営業が53か所、一部営業が108か所となり、4℃の場合ほどの落ち込みではないものの、現在と比べれば大きく減少する。
日本はスキー場来場者数で世界第4位のスキー大国だが、国全体を対象に気候モデルでスキー場への影響を評価した研究はこれまでほとんどなかった。
何をどう調べたか
対象は、ゴンドラ・ロープウェイまたはリフトを持つ全国349か所のスキー場。各スキー場について、最低標高(山麓)・中間標高・最高標高(山頂)の3点を地形図から読み取り、それぞれの地点で積雪を計算した。
気候データには、気象庁気象研究所が水平解像度5kmまで細かくした全国のアンサンブル気候予測データ(d4PDF5km)を使用。これを積雪の物理モデルSNOWPACKに1時間ごとに入力し、過去実験(1951〜2011年の60年間)、2℃上昇実験、4℃上昇実験の3通りを計算した。2℃・4℃という数字は、いずれも産業革命以前と比べた世界平均気温の上昇量を指す。
計算の妥当性は、スキー場から5km以内にあり10年以上の積雪深観測があるアメダス37地点と照合して確認された。年最大積雪深の平均誤差は−4cm、二乗平均平方根誤差は33cm、相関係数は0.81だった。
「100日ルール」という物差し
営業可能性の判定には、欧米の研究で用いられる100日ルールが使われた。積雪の全層水量(SWE)が100kg/m²以上となる日が1シーズンに100日を超える標高を積雪信頼ラインと呼び、このラインがスキー場のどこに来るかで3つに分類する。
| 積雪信頼ラインの位置 | 判定 |
|---|---|
| 最低標高より下にある | 全部営業可能(スキー場全体で滑れる) |
| 最低標高と最高標高の間にある | 一部営業可能(上部だけ滑れる) |
| 最高標高より上にある | 営業不可能 |
60年間の計算のうち、この条件を満たした年の割合が「営業可能率」となる。以下で挙げる箇所数は、いずれも論文が営業可能率80%を安定的な営業の目安として集計したスキー場の数である(4℃上昇時の7・26か所は論文本文で「80%超」、標高別の分析や北海道の2か所は「80%以上」と表記されている。2℃上昇時の53・108か所は論文結論部の値)。
標高と緯度が分ける
過去実験の時点で、全部営業可能率が80%未満のスキー場は全体の約60%を占めていた。これは、すでに人工降雪機に頼って営業しているスキー場が一定数あることを反映している(本研究は人工雪を計算に含めていない)。
2℃上昇実験では、全部営業可能率80%未満のスキー場が全体の90%に達した。営業可能率が高く保たれたのは、北海道と、新潟・長野・群馬の県境付近、東北地方のごく一部に限られる。
標高との関係も明確に出た。東北日本海側と新潟・北陸地域では、2℃上昇時に全部営業可能率80%以上を保つには山麓標高(最低標高)で約1000mが必要となる。一部営業でも、山頂標高で約1200m以上が要る。一方、北海道は山麓標高約500m以上で全部営業可能率80%以上を保っており、緯度の高さが標高の低さを補っている。この「北海道の2℃上昇後の状態が、東北日本海側や新潟・北陸の現在の状態に相当する」という対応関係も示された。
なお、長野県と岐阜県については、同一県内でも気候が大きく異なることから、この標高依存性の解析からは除外されている。スキー場が集中する新潟・長野・群馬の県境付近で、2℃上昇時にも全部営業可能率80%以上を維持したのは、志賀高原のスキー場のみだった。
4℃上昇実験では、北海道でさえ全部営業可能率80%以上を保つスキー場は2か所となる。
パウダースノーはどうなるか
研究は「新雪日数」も計算している。各スキー場の最高標高点で、午前9時から午後3時の間に積雪の全層水量(SWE)が100kg/m²以上あり、かつ積雪表面10cmの99%以上が新雪またはこしまり雪である日を数えたものだ。
過去実験では、新潟・長野・群馬の県境付近や北海道札幌市の西側、奥羽山脈沿いの高標高帯で年間20日を超えていた。2℃上昇実験では、20日を超えていたスキー場の多くで12〜16日に減少する。ただし札幌市西側や八幡平エリア、県境付近の特に標高の高い一部のスキー場では、年間20日超を維持していた。
4℃上昇実験になると、多くのスキー場で年間10日以下まで減る。それでも札幌西側・八幡平・県境付近の一部では20日程度が残ると予測された。
著者らは、この新雪日数が各スキー場の最高標高点での結果であり、スキー場全域でパウダースノーを売りにできるかどうかまでは評価していない、と明記している。
研究が挙げた限界
著者らは複数の限界を挙げている。読み解くうえで重要なものを整理する。
人工雪を計算に含めていない。 石川県以西や本州太平洋側では人工降雪・造雪施設を前提とした運営が一般的で、それらのスキー場の営業可能率は実態より低く見積もられている可能性がある。著者らは、人工雪施設を組み込んだ分析を次の課題としている。
100日ルールが日本の実態に合うか。 中国地方では2012〜22年に営業した全スキー場の平均営業日数が66.9日で、すでに100日とはかけ離れている。北海道では3月末に十分な積雪が残っていても、集客が見込めず営業を終える例が一般的だという。
コースの標高分布を考慮していない。 著者らは、スキー場によって下部にコースが集中する白馬八方尾根スキー場や苗場スキー場と、上部にコースが集中する志賀高原やかぐらスキー場があり、その配置によって温暖化の影響の大きさも変わると想定されるが、本研究ではその要素を分析に含めていないと述べている。標高ごとのコース面積分布を考慮した手法の導入が、今後必要になるとしている。
このほか、アメダス観測点より高標高にあるスキー場では計算の妥当性を十分に検証できていないこと、気温の高度減率や降水量・相対湿度を高度に対して一定と仮定していること、計算コストの制約から気候予測データの1メンバーのみを使用しており予測の不確実性を提示できていないことも挙げられている。
示された課題
著者らは結論として2つの実践的な課題を挙げる。ひとつは、世界平均気温の上昇を4℃ではなく2℃の水準に抑えることの重要性。もうひとつは、スキー産業の地理的な集約が進むなかで、日本全体としてスキーを実践する機会をどう確保するかという問題である。
海外の研究では、雪不足の年でも積雪が安定する高標高の大規模スキー場では集客の減少がほとんど起きないことが報告されている。同じことが日本で起きれば、生き残るスキー場への訪問集中と、それに伴う高価格化やオーバーツーリズムが生じうる。一方で、地方のスキー活動を長年支えてきた低標高のスキー場が失われれば、スキーに参加する機会そのものが減っていく。
著者らは、将来も存続可能性が高い高緯度・高標高のスキー場では、インバウンドの増加によりすでに高価格化が生じており、その影で日本人の利用が離れている実態があるだろう、とも指摘している。
出典・参考リンク
- 日本雪氷学会誌「雪氷」 — 吉沢直・勝山祐太(2026)将来における日本全国のスキー場の存続可能性:自然積雪条件における気候変動影響評価の試み、88巻4号 295-308頁(DOI: 10.5331/seppyo.88.4_295)
- 北海道大学 プレスリリース — 気候変動でスキー場はどのぐらい減るのか〜気温4℃上昇で安定営業できるスキー場は全国で7か所に〜(2026年8月3日)