2026年4月、白馬村のスキー場は例年より早い春を迎えている。ゴールデンウィークまで営業を続けることは難しい状況だ。フランスでは4月5日、国立宇宙研究センター(CNES)の衛星データをもとにした研究が発表され、欧州のスキーリゾートの半数が2050年までに閉鎖を余儀なくされるという予測が明らかになった。欧米日本で同時進行するこの現象は、個々の「不運な年」ではない。数十年にわたって積み上がってきた変化が、臨界点に達しつつある。

フランスで何が起きているか

フランス国際放送(RFI)が2026年4月5日に報じたところによると、フランスのスキー産業は「下降螺旋(downward spiral)」に入りつつある。その裏付けとなったのが、フランス国立宇宙研究センター(CNES)の衛星積雪観測データをもとにした最新研究だ。

CNES・グルノーブル大学研究(2026年)の主要予測

・2050年までに欧州スキーリゾートの約50%が閉鎖

・21世紀末までにほぼ全てのリゾートが閉鎖リスク

・フランス国内では過去70年間ですでに204のスキーエリアが閉鎖

閉鎖したリゾートの大多数は標高2,000m以下に位置している。南アルプスに近い低地のリゾートほど早く消えた。グルノーブル大学の研究者らは、この204件の閉鎖の多くが「雪不足による経営不振」と「修繕・設備投資への公的補助の打ち切り」が重なったことで起きたと分析している。

人工降雪機への投資によって存続を図るリゾートも多いが、その信頼性の限界も明らかになりつつある。人工降雪が有効に機能するための気温条件(氷点下)が確保できる期間が、年々縮小しているからだ。

アルプス全体の積雪が、10年単位で減り続けている

フランスの状況はアルプス全体の縮図だ。MDPI誌に掲載されたリモートセンシング研究(2026年)は、欧州アルプス全域の積雪を長期分析し、次の事実を明らかにした。

  • 1970年代以降、アルプス全体の積雪量が10年あたり5.6%のペースで減少している
  • 積雪深の減少率はさらに大きく、10年あたり8.4%以上
  • 春季の積雪消失時期が早まり、スキーシーズンが両端から縮小している

2023年、Nature Climate Change誌に発表された研究は、欧州2,234か所のスキーリゾートを対象に温暖化の影響を分析した。結果は以下のとおりだ。

欧州スキーリゾート2,234か所の将来リスク(Nature Climate Change, 2023)

・気温上昇+2℃シナリオ:53%が深刻な雪不足リスク

  うちピレネー山脈:89%が閉鎖危機

  フランスアルプス:33%が閉鎖危機

・気温上昇+4℃シナリオ:98%が深刻なリスク

現在の世界の排出軌道は、21世紀末に+2.5〜3℃程度の温暖化をたどるとされている。「+4℃は極端なシナリオ」ではなく、排出削減が現状ペースに留まった場合に現実化しうる数字だ。

北米でも、大手リゾートが異変を認める

北米でも状況は深刻だ。米コロラド州を拠点とする北米最大のスキーリゾート運営会社Vail Resortsは、2025-26シーズンの訪問者数が前年比20%減少したと報告した。西部米国の積雪が広域にわたって30年平均の50〜60%にとどまり、リゾート各社が早期クローズを余儀なくされた。

米国では1960年代以来、1,600以上のスキーリゾートがすでに廃業している。現在もシーズン短縮のペースは加速している。

米国スキー産業の経済損失(Protect Our Winters / Earth.Org)

・過去20年間の平均年間損失:2億5,200万ドル(低雪年との比較)

・1シーズンの低雪による雇用喪失:最大17,400職

・2050年時点の予測年間損失:6億5,700万〜13億5,200万ドル

環境シンクタンクEESIの分析によると、1960〜1979年と比較して、現在すでに米国のスキーシーズンは5.5〜7.1日間短縮されている。2050年には、排出量の削減レベルに応じてさらに14〜62日間の短縮が見込まれる。

日本のスキー場 — 白馬から見える現実

「日本の乾燥した軽い雪質は、インバウンド観光の強力な呼び水となってきた。しかし2025-26シーズン、その神話にも陰りが見え始めた。

白馬村では2026年4月現在、ゴールデンウィーク(5月上旬)まで複数のスキー場が営業を維持することが困難な状態となっている。例年なら残雪を生かして4月末から5月初旬まで滑れた斜面が、今シーズンは早い段階でクローズを迎えている。

SnowJapanのデータによると、今シーズンの白馬エリアは2月まで比較的良好な積雪を保っていたものの、3月以降の気温上昇と降雪の停止が急速に積雪を奪った。「Japow machine(日本の粉雪生成メカニズム)がかなり停止した」という報告は、単なる気象変動にとどまらない構造的な問題を示唆している。

北海道のリゾート(ニセコ、ルスツ、富良野など)は通常4月末まで営業を維持できているが、長野・新潟エリアでのシーズン短縮傾向は明らかだ。日本でも低標高・低緯度のスキー場から順に閉鎖・縮小が進んでおり、この傾向は欧州で起きていることと軌を一にしている。

日本のスキー場数の推移(国土交通省観光庁統計)
ピーク時(1990年代)には全国で700か所以上を数えたスキー場は、2020年代には400か所を下回っている。少子化・競合レジャーの増加とともに、温暖化による雪不足が閉鎖に追い打ちをかけている。

人工降雪という「延命措置」の限界

多くのリゾートが採用する人工降雪機は、気温が氷点下であることを前提とする。しかしその条件が満たされる期間が年々短くなっている。

気候変動適応のシミュレーション研究(INRAE, フランス国立農業食料環境研究所)は、人工降雪を50%増加させても、+2℃シナリオ下での欧州北部アルプスのリスク削減効果は7〜9%にとどまることを示した。つまり、人工降雪は延命には寄与しても、根本的な解決にはなり得ない。

さらに、人工降雪は大量の水と電力を消費する。積雪が減れば水資源も減る——その水を人工降雪に使うという逆説が、持続可能性の面でも問題視されている。

2050年、そして21世紀末へ

現在世界で閉鎖・縮小しているスキー場の数は、これから来る変化の「序章」に過ぎない。各研究が示す軌道は一致している。

  • 2030年代:低標高リゾートの閉鎖が加速。特にフランス南アルプス、ピレネー、日本の低地スキー場
  • 2040〜2050年:欧州スキーリゾートの約50%が経営不能に。北米でも主要マーケットが縮小
  • 21世紀末:+4℃シナリオ下では欧州のほぼ全てのスキーリゾートが深刻なリスクに直面

スイスの研究(2017年)は、21世紀末までにアルプスの積雪量が30〜70%減少する可能性を示した。どちらの数字になるかは、今後の気温の推移の仕方により変わってくる。

スキーという産業・文化・地域経済の喪失は、雪山に関わるすべての人々にとって他人事ではない。そしてスキー場の閉鎖は、積雪減少という変化の最もわかりやすい指標のひとつに過ぎない。雪崩の発生パターン、水資源の分配、山岳生態系——それらすべてが同じ変化の影響を受けている。

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